





















左)改修前の外部 中)改修前の内部 右)床下改修の様子



House H
窓辺の家
滋賀県高島市の空き家となっていた古民家を改修し、季節ごとに民泊や別荘として運営・活用するプロジェクトである。
高島市の古民家は、中央に合掌屋根を持ち、周囲をかこむ「下屋」が特徴である。かつては大雪に備えた形式であり、地域に根付いた風景となっているが、近年では積雪量が減少し、家に求められるニーズも変化してきている。このような土地において、現代の風土と住まいを改めて繋ぎ直し、地域の魅力を再発見できる場にしたいと考えた。
改修前の下屋部分は「雪囲い」(波板の囲い)で閉ざされていたが、積雪量を調査し、近隣住民へのヒアリングも行った結果、この地域では「雪囲い」を撤去する動きが進んでいることが分かった。そこで、下屋を風景に向けて開き、周辺環境と繋ぐことを考えた。かつての「囲い」を、緑を感じながら過ごせる「居場所」へと転換する。窓辺には白い部屋を挿入し、座ったり寝そべったりできる居場所をつくった。ほんのり白く染めた地域産の木材が、石庭のように自然光を古民家の奥まで導く。漆黒の古色とのコントラスト、新しいような古いような感覚が混在する窓辺。下屋に焦点を当てた最小限の操作で、風景との出会いを創出した。
古民家中央部の和室は雑壁を取り払って、ひとつながりの広間へと改修した。広々と使うことができるし、自由に動く「箪笥の間仕切り」を配置しているので、分節して使うこともできる。箪笥の間仕切りは収納力を高めつつ、既存の”歪み”や”間取り”に制約されない柔軟さを持たせている。既存図面が無いため、実測調査を経て構造補強を施し、断熱および床暖房設備を導入することで、現代的な温熱環境へと適応させた。離れに残っていた蔵には、三つの正方形の開口を穿つだけで光を入れる工夫を施した。
古民家の味わいを残しながらも、新しいふるまいが生まれて、積み重なった時間にさらに幾重にも営みを重ねていくことができる場を目指した。
設計:Corred Design Office
施工:中尾工業
所在地:滋賀県
主要用途:住宅
構造:木造(在来軸組工法)
規模:地上2階
竣工:2025年
写真:新山源一郎